第3話:再会、そして凍てつく桜
瓦礫の街をさまよう太陽の足取りは重かった。鞘から抜けぬままの刀──「後夢(アトム)」は、彼の背にずしりとした重みを残すだけで、何の助けにもなっていない。
(結界は張れる。でも、それだけじゃ……)
ビルのガラスに映る自分の姿は、ただの人間。アビスに適応できなかった現実が、心に突き刺さる。
「太陽ッ!!」
突如、背後から飛びかかるような声。振り返ると、懐かしい顔が視界に飛び込んできた。
「結……!」
全身を黒いスーツに包み、背に巨大なハンマーを背負った近藤結。太陽の幼稚園時代からの幼なじみで、スポーツ万能の快活な男だった。
「お前、生きてたか! マジで心配したんだぞ!」
思わず肩を抱き合い、互いの無事を確認する二人。しかし、喜びは束の間だった。
ズシャァッ!
建物の上から滑り落ちるように現れたのは、異形のモンスター。かつては人間だった名残をわずかに残しつつも、四肢は鋭利に変形し、紫色の瘴気を纏っている。
「チッ、また来やがった!」
結が背の装置を操作すると、ハンマーの内部で磁力が発生し、周囲の鉄片や瓦礫が引き寄せられて浮遊する。
「行くぞ、太陽! 背中任せた!」
太陽は無言でうなずき、すぐに結界を展開。空中に現れた光の層は、透明だが不思議な厚みを持ち、空気を震わせるように波打っていた。
ドンッ!
結がハンマーを地面に叩きつけると、重力に逆らうかのようにモンスターの動きが引き寄せられ、次の瞬間、反発するように弾き飛ばされた。
「なっ……!」
太陽は驚きながらも、結界を斜めに張り出す。反射するように設置したその結界に、飛ばされたモンスターが叩きつけられ、空中で跳ね返った。
「やるじゃん、太陽!」
「お前がすごいだけだろ!」
そこへ、もう一つの気配が吹き込むように現れる。ひらりと降り立った少女は、淡いピンクの衣装に、片手に持った扇子。長く伸びた髪が風に揺れ、冷たい美しさを湛えていた。
「……誰だ?」
太陽が警戒しながら声をかけると、少女は少しだけ扇子を傾け、微笑む。
「私は西行寺さくら。アビスに適応した者よ。敵じゃないわ」
扇子を一振りすると、淡い桜の花びらのような粒子が空中に舞う。それが触れた瞬間、モンスターの体はキィンと音を立てて凍り付き、動きを止めた。
「今よ!」
結が再びハンマーを振り下ろし、凍結したモンスターを粉砕。静寂が訪れる。
太陽は思わず、さくらに尋ねた。
「……君も、アビスに……適応したのか?」
「ええ。だからこそ、取り戻したいの。こんな世界になる前の、穏やかな日々を」
そう告げる彼女の目は、凍てついた桜のように美しく、そして哀しかった。
【投稿者】ますた

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