第5話:再始動の街、仙台
ビルの一室で目覚めた太陽たちは、早朝の霞む空の下、仙台を目指し出発した。
腐食の交差点を越えた先は、アビスの影響が幾分薄まっており、街の輪郭がわずかに「人間の住処」としての気配を取り戻していた。
「……ここから北東に出れば、仙台の外縁部につながる道がある。地図の通りなら、2日もあれば着ける」
さくらが手元の電子地図を広げながら言った。紙ではない。アビスの瘴気にもある程度耐えうる防蝕タブレット。
太陽たちが拠点にしていた小さな地下シェルターの中にあった、唯一動く端末だ。
「マジで電池切れないのすごいよな、これ。軍用スペックってやつ?」
「たぶん、ね。何人かの命がこれに繋がってたんだと思うと……下手に触れないわ」
街道は封鎖され、信号は全て無意味に点滅している。電線は途中で途切れ、まるで首を斬られたような外観だ。
「それにしても……静かだな」
「何もいないから怖い、ってやつだね」
途中、太陽たちは数軒の商店跡を見つけ、食料や水を補充した。保存食、浄化タブレット、簡易テント。
結が「ほれ、これが野営セット!」と得意げに背負って歩く姿が、妙に頼もしい。
そして三日目の夕方――。
彼らはついに、仙台の入り口に立っていた。
だがそこは、かつての仙台ではなかった。
防壁。照明。自衛隊式の簡易検問所。
廃墟の合間に鉄とコンクリートで組まれた「城」のような都市が構築されていた。
「これ……本当に仙台かよ……」
呆然と立ち尽くす太陽の前に、数人の兵士が銃を構えて現れる。
「動くな。所属を答えろ!」
さくらがすぐに手を挙げ、前に出る。
「私たちは東京から来た。民間人だけど、協力者を探してるの。仙台に指揮官がいるって聞いて」
「……身柄を確認する。ついてこい」
3人は拘束されることはなかったが、しばらくの間、武装した兵士に囲まれたまま都市内部へと案内される。
かつての駅前は巨大な作戦本部になっており、瓦礫の上には仮設の管制塔が建てられていた。
「すげえ……ここまで動いてたんだな、世の中……」
中に通された彼らは、何人かの若者たちと相席する形で、広い作戦会議室へ。
その中のひとり――長身で金髪の男が、ニヤリと笑った。
「お、見ない顔だな。おまえらも、“帰還者”か?」
「帰還者?」
「東京からのサバイバーって意味。ここじゃ少し珍しいけどな」
彼の名はヴィクター・ラインハルト。元・ドイツの軍学校所属。アビス災害後に日本へ流れ着いたという。
体格も口調も図太いが、意外にも仲間想いらしく、周囲からの信頼は厚そうだった。
他にも、関西出身の喋りの軽い剣士・三好レン、物静かで研究者風の少女・霧島ミユリなど、癖の強そうな面々が顔を揃えている。
「……俺たちは、仲間を助けに来た」
太陽が静かに言うと、霧島ミユリが言った。
「東京に、まだ“生き残り”がいるの?」
「生き残りじゃない。……倒さなきゃいけない相手がいる」
その言葉に、場が一瞬だけ重くなった。
そこへ、ひときわ重厚な足音と共に、長髪を束ねた壮年の男が入ってきた。
「ならば、ちょうどいい」
彼の名は風間征一郎。元・陸上自衛隊の指揮官で、現在の仙台拠点の司令でもある。
「お前たちにも任務をやってもらう。“東京奪還作戦”、正式に始動する。協力してもらうぞ、若者たち」
太陽の目が光を取り戻した。
彼の戦いは、ここから新たな段階へと進む。
【投稿者】ますた

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