崩壊都市東京 第四話(後編)

第4話(後編):腐食の交差点を越えて

地図の赤線を頼りに歩き続け、夕暮れが近づいた頃、太陽たちはその“交差点”と呼ばれる場所に辿り着いた。

目の前には、まるで都市全体が錆び落ちたかのような光景が広がっていた。

ビルは溶け落ちたように崩れ、車は骨組みだけを残し、地面には黒く染みついた腐食跡が広がっている。

「ここが……」

「腐食の交差点……」

地面を踏みしめるたびに、金属片が粉のように崩れる。太陽がうっかり鉄製のガードレールに手をかけると、接触した部分が煙をあげ、白く泡立って溶けた。

「触れるだけで……!?」

「アビスの濃度が濃すぎる。もはや“空気”が物を壊してるって感じだね」

結が額に汗を浮かべながらも、得意の身体能力で軽やかに瓦礫を飛び越えていく。彼のハンマーには布が巻かれ、金属がむき出しにならないように工夫されていた。

「ここ、通り抜けられるのかしら?」

「……通るしかない。迂回すれば夜になる。モンスターに囲まれたら……それこそ終わりだ」

太陽の声には、いつになく迷いがなかった。さくらは少し驚いたように見つめたが、何も言わず頷いた。

3人は、息を潜めながら腐食の街を進んだ。

時折、遠くで異様な音が鳴った。金属がひとりでに崩れるような音、どこかでモンスターが金属を引き裂く音。そして何かの羽音。

「……なんか、ついてきてないか?」

結の言葉に、太陽もすぐ反応する。

「来てる。上」

見上げた瞬間、霧の隙間から鋭い影が滑空してきた。巨大な翼に、金属のような羽根。鳥のような外見だが、目は赤黒く光り、体の下部には無数の針状の触手が揺れていた。

「飛行型……!」

さくらがすぐに扇子を展開、上空に氷の刃を撃ち上げるが、金属羽根が弾き返す。結が瓦礫を足場に跳び、磁力で一気に近づいてハンマーを一撃!

「落ちろッ!!」

触手が結に絡みつくが、太陽が即座に結界を展開。淡い光が触手を弾き、結を守る。

「助かった!お前、ナイス!」

「前からずっと守ってきただろ……」

「そういうセリフはイケメンに言ってくれよ、太陽」

飛行型はそのまま遠ざかっていった。倒せなかったが、撃退には成功した。

「……時間がない。急ごう」

道中、さくらがこっそり太陽に尋ねる。

「あなたたち、幼なじみ?」

「うん。結とは幼稚園の頃からの腐れ縁。喧嘩もよくするけど、なんだかんだ信頼してる」

「ふうん……なんか、羨ましいわね」

会話が少しだけ柔らかくなる。

やがて、腐食の交差点を抜けた先に、比較的まともな建物が残っていた。まだ空はかすかに赤く、夜になる前の数十分――休むにはちょうどいい時間だった。

ビルの中には、崩れかけたソファや机があり、ドアを塞げばなんとか寝床になる。

「やれやれ……今日はここで泊まるしかねえな」

「食料は、例の工場の男がくれた保存食がある。1日くらいは……」

その夜、焚き火代わりに、集めた木材と発煙筒で小さな灯りを作った。さくらは静かに空を見上げる。

「星、見えないわね」

「……あの空の向こうに、仙台がある」

太陽は鞘に入ったままの後夢(アトム)を握る。

「行こう。そこに……きっと何かがあるから」

そう、東京を取り戻す鍵が。彼女を、そして世界を変えるためのーー戦いが。

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【投稿者】ますた

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